ここが終点と思っていても、おかしなことに、いつもいつも、終わりが始まりだ
三島由紀夫と万年筆と直筆原稿

三島由紀夫と万年筆と直筆原稿

先日、別冊太陽の三島由紀夫特集号を読んだのだが、結構面白かった。万年筆の話題はちらりとも出ていないけれども、直筆原稿の写真が結構あったので書き記しておくことにする。
満寿屋の原稿用紙といえば、三島由紀夫や川端康成が愛用してたとして有名だが(公式サイトからのアナウンス)別冊太陽に掲載されていた直筆原稿は、ほぼオキナの原稿用紙だった(多分だけど、新潮社が渡した原稿用紙がオキナだったんじゃないかな)
その中でも特に目を引いたのが、遺作となった『天人五衰』の最終ページ。細字の万年筆(インクは多分ブルーブラック)を使って描かれた原稿は、なんだかほかの直筆原稿とは違う。
三島由紀夫の筆跡は、かっちりしていて読みやすい(書き損じの原稿は捨ててしまって編集者には見せなかったというから)のだが、なんだかこの最後のページの文字は、崩れているのではないけれども勢いがついていて、自分でも制御できないような圧倒的なエネルギーを感じる、ような気がする。これを書き上げた後、市ヶ谷駐屯地に(まあ数日のブランクはあったといえ)……
書斎の写真には、やっぱりモンブランの149がででん、と控えている。鉛筆と、おそらくはパーカーであろう金張りの万年筆もあるけど、なんでかあんまり話題に上らない。パーカー51らしいというもっぱらの噂だが、パーカー持ってないからわかんない。
あと、三島由紀夫と万年筆の話題で、こんなページを発見した。
『三島由紀夫と万年筆』
下田にある、三島ゆかりの「日新堂」というお菓子屋さんに、三島が駐屯地に赴く前において行ったという万年筆があるという。その写真もあって、ちょっと感動した。
万年筆のモデルは、PILOTのキャップレス(緑軸)。今でいうところのゴールドグリーンかな。いろんな色があるみたい
古い方は、もつところの金が少し長いのか。キャップレス、全然興味なかったけど、60年代物だったらちょっと欲しいなと思ってしまった。すごいぞ三島パワー(物欲)。
三島由紀夫は細字を好んでいたようだ。というか、その時代、あんまり太字なんかははやらなかったのかもしれない。三島直筆原稿を見て、私の太字熱が一気に冷めたことは、ここに書き記しておくことにしようと思う。
万年筆以外で結構面白かったのは、三島が猫好きの人と交わした書簡。「愛猫チル花押」と書いて、ブルーブラックインクの肉球スタンプが押してある。猫はさぞかし迷惑だっただろうが、猫の肉球にインクを塗りたくって、葉書にぺたりと押して、それを見てにやにやしている三島を想像すると微笑ましい。直筆猫のイラストとか、妙にうまいし……似てるし……
最近の作家(おそらくは安部公房以降)が不幸(?)だと思うのは、ワープロ・パソコンの普及によって直筆原稿がなくなってしまったことだと思う。もし、死後に作家の博物館とか記念館とかが建立されたとして、『直筆原稿』『愛用の筆記具』ではなくて、『自分で印刷した原稿』『愛用のノートパソコン』が展示されているのではあまりにも寒々しい(いや、しかし安部公房が愛用していたワープロ・文豪があったらそれはそれで見てみたいが……)

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