ここが終点と思っていても、おかしなことに、いつもいつも、終わりが始まりだ
日本橋三越 セーラーインク工房初体験

日本橋三越 セーラーインク工房初体験

Sailor gentle ink
日本橋三越は今年の世界万年筆フェア以来になる。あの時は7階の催事場だったが、今回は本館5階の万年筆売り場。思えば初めてインク工房を目撃したのも世界の万年筆祭りだった。「雑誌と同じだ!」と心の中で叫んだ記憶がある。その時は会社終わりにいったからもう受け付け終ってたけど。
今回こそは、と前夜から準備。色のイメージと名前を考える。今回作ってもらったのは2色。「暗い青」と「暗い緑」。名前は、自分じゃ思いつけなかったので、好きな小説のタイトルからもらった。にやにやしながら本棚を眺め、この作品はこの色のイメージ……と深夜ひとりきり。猫がたまに邪魔しに来るよ。
混んでるのかなあ、と思って早めの時間に着くようにした。エレベーター降りてしばらく場所が判らなくてうろうろした。適当に歩いてたら、色とりどりのワイングラスが並んでいるのを発見。雑誌と同じ顔があった。ちょうど人のいない時間帯で、待ち時間ゼロだった。つうか万年筆売り場、客より店員の方が多かった。
Sailor gentle ink
まず、緑の方。イメージしてたのはモンブランのレーシンググリーンよりも暗めのインク。下の文字は比較対象。ガラスペンで書いたからフローだくだく状態で実際よりも濃い目に見えているが、多分3本目の線辺りが万年筆に吸わせた時の色だと思う。
名前はフォークナーの『響きと怒り』。もう少し明るい緑なら『サンクチュアリ』ってつけたいところだった。
Sailor gentle ink
そしてこちらが青。石丸氏曰く、青はとても難しい色らしい。人間の可視範囲ぎりぎりだとか。そう言えば自然界で青い花を作るのも大変だと聞いたが、関係はあるのだろうか。
青インクは極限まで濃くして色を出してるから、これ以上「青を濃くする」というのは難しいのだとか。そこで何とか他の色を混ぜて(赤とか緑とか)青く見せているらしい……なんて話をしながら、過去に作った色なんかを見せてもらったりして、結局作ってしまうのだからプロは凄い。
私のイメージは、ちょっと煮詰まったウォーターマンのブルーブラックよりも濃くて暗い青。他社製品の具体名を出してお願いするのは失礼かなあと思ったけれども、嫌な顔ひとつせず対応していただきました。ありがとうございました。
ちなみに、146に入れてみたらフローはいいし、書いた瞬間には青が鮮やかに浮き出るのだが乾くと落ち着いた色味に変わる。面白いです。
名前は、セリーヌの『夜の果てへの旅』……。
帰り際、「大事に使わせていただきます」って言ったら「どんどん使ってください」と言われたので嬉しかった。どんどん使うことにする。それにしてもセーラーのインクは独特な匂いがするなあ。瓶だけかと思ったら、インク吸わせた万年筆のペン先からも立ち上る。でも嫌いな匂いじゃない。
インク工房初体験だったけど、楽しかった。また近くであったら行きたいなあ……。


小説の色のイメージを色で表現するのは意外と面白かった。以下思いつきメモ。
『暗夜行路』志賀直哉
言わずもがな、黒。漆黒だが、僅かに青みが含まれていてもいい。新月の夜の海。
『サンクチュアリ』フォークナー
やわらかい新緑の緑。夏の木々とその日射し。
『八月の光』フォークナー
夏の青空なので、すこんと抜けるような空色。薄い水色ではなくて、芯の強い空色っぽい。
『野生の棕櫚』フォークナー
洪水を起こしたミシシッピ川の川面の色。多分茶色というかセピア。でもミシシッピ川彩度は『じいさん』という章になってるんだよな……
『千年の愉楽』中上健次
ボルドー。血の色を煮詰めたような深い赤がいいと思う。
『枯木灘』中上健次
灰色。ふるい白黒写真のイメージで。冬の荒海かも知れん。それを水墨画風に。
『ブルックリン最終出口』ヒューバート・セルビー・Jr
青みの強い灰色。雪の降ってくる空の色。
『悪霊』ドストエフスキー
限りなく黒に近い赤。
まあ、好きな小説並べただけなんだけど、きりがないのでこの辺で。ちなみに映画編もあるのはひみつ。

2 Comments

  1. takaya

    インク工房 いいですね!いい感じの青です。
    私も『青』にハマリつつあるのですが、初心者のわりに青のインク瓶がいつの間にやら7本。カートリッジを入れると全10色。なかなか難しいですね。その日、その時の気分でお気に入りは変わるし・・・。
    最近モレスキンデビューしましたが、見事に裏抜けします。09’版のダイアリーは残念ですが見送ろうかと思ってます。
    そろそろ各店で09’版の手帳・ダイアリーが並び始めましたね。
    あ~また散財の旅が始まりそうですが、合言葉は『反省はしてるが、後悔はしていない!』  
    ホント名言です。

  2. 深崎

    青は奥が深いです……家の青インクも数えたくないくらい集まってしまいました。紫じゃない青、って探すの難しいですね……
    モレスキン、紙質劣化前のデッドストックをやっと探して使ってますが、先行きは暗いです。ルールドはもうないし。劣化前はだいたいどんなインクでも裏抜けしなかったんですが。私の持ってるインクの中で、劣化後抜けなかったのはモンブランBBだけでした。パーマネント怖い。
    手帳とか大好きで、よく買ってたんですけど、だいたい2月くらいになると手帳に書き込む予定が全くないことに気付いて、ここ数年買ってません。祭りに参加できなくて寂しいですコンチクショー。

takaya へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です